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浦和家庭裁判所 平成8年(家ロ)1002号 審判 1996年3月22日

申立人 埼玉県○○児童相談所長 X

事件本人 A

親権者父 B

親権者母 C

主文

1  親権者両名は、a病院から、本人を退院または転院させる手続をしてはならない。

2  本人が現在の疾病から回復し、退院することが相当とされる場合には、申立人は、本案(平成8年(家)第610号児童の福祉施設収容の承認申立事件)の審判が確定するまでの間、本人に一時保護を加えることができる。

3  親権者両名は上記2項の申立人による措置を妨げてはならない。

理由

1  申立人は、<1>本人がa病院に入院中親権者両名が面会しないこと、<2>退院の手続を採らないこと、<3>退院可能のときには本案の審判確定まで申立人が一時保護を加えることを承認する、との審判前の保全処分を求めた。

2  一件記録(調査官の調査、前記本案の記録、前件平成7年(家)第×××号事件の記録を含む。)並びに親権者B審問の結果によると、次の事実が一応認められる。

(1)  本人は、平成7年11月2日、親権者両名と子2人の家庭に引き取られて、b小学校(現在1年生である。)に通学を始めた。しかし、本人は欠席が多くなり、本年1月は5日しか出席せず、2月になってからは全く登校していない。

(2)  本年の2月26日の深夜には、本人は頭部挫創により、親権者に連れられてa病院で治療を受けた。同病院は応急の治療をしたあと、翌日諸検査を行う予定でいたが、以後の来院はなかった。

(3)  本年の3月11日午前0時20分に、本人は親権者両名に連れられて、上記病院に来院した。本人には意識障害があり、全身が衰弱し、相当に危険な状態であり、脱水症状、前頭部に新たな挫創が認められた。いわゆる栄養失調の症状が顕著であった。

(4)  諸検査の結果では、本人には、ひどい低栄養(満足な食事を相当の期間採っていないことが推認される。)、脱水症状からの腎機能の低下が見られた。もうすこし来院が遅れ、治療がされなかったら、本人の死亡も有り得たし、すくなくとも腎臓の機能回復は困難で、人工透析が必要となるところであった。さいわい適切な治療がなされ、本人の命に別状なく、腎機能も回復することが見込まれている。しかし、治療には1か月の入院が必要と診断された。

3  以上の疎明事実のほか、前掲の各資料を総合すると、2で一応認められるような、子の福祉上極めて憂慮すべき事態を招いた原因や責任は、本件の審理ではいまだ明らかとはいえないが、本人をこのまま再度両親の監護に委ねると、同様の事態が生ずることが予想される。したがって、本人に対して、安定した治療を加えることが必要であり(前記病院で現在充分な治療を受けていることが疎明される。)、また、退院のさいには応急の措置として、児童相談所長が一時保護を加えるのが相当である。なお、一時保護自体は児童相談所長の権限に属する事項であるが、このまま推移すれば、一時保護等をめぐって、親権者両名との間に紛争が生じることが予想されるので、それを防止する趣旨で、主文2、3項の審判を加える。また、面会の禁止については、そこまでの必要性が現段階では疎明されない。

よって、参与員Dの意見を聞いたうえ、主文のとおり審判する。

(家事審判官 鈴木経夫)

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